ママになるための栄養は足りてる?実は栄養不足かも?
公開日:2022年3月6日
記事監修:管理栄養士 松尾和美
妊娠に向けた身体づくりといっても、特別なことよりもまずは毎日の基本の規則正しい生活が非常に重要です。しかし、日本人の「やせ」の割合は20代女性の5人に1人、30代でも10人に1人と非常に高い状態が続いています。痩せているとさまざまなところに影響を及ぼし妊娠しにくくなる可能性があります。妊娠した後もお腹の中での赤ちゃんの発育や妊娠中毒症などの母体の体調、また出産した後も体調不良や母乳の出が悪いなど、さまざまなことに影響を及ぼすと考えられています。赤ちゃんが欲しいと思ったら、安心して赤ちゃんを迎え入れられるよう、まず身体を整えることから始めましょう。
そもそも、「痩せている」「太っている」というものに基準はあるのでしょうか。「やせ」の判定には「BMI」という指標が用いられます。これは肥満度を表す体格指数で[体重(㎏)]÷[身長(m)の2乗]で求められます。日本肥満学会の定めた基準では18.5未満が「低体重(やせ)」・18.5以上25未満が「普通体重」25以上が肥満に分類されます。無理なダイエットや極端なエネルギー不足により生じる「やせ」は、卵巣機能の障害や貧血、低血圧などの原因になりかねません。
さらに日本では低出生体重児(2500g未満)の割合が増えていますが、その背景のひとつに若い女性の「やせ」や妊娠中の体重増加不足があると言われています。小さく生まれた子どもは成人後に高血圧や糖尿病などの生活習慣病にかかりやすいと考えられています。そのため、妊娠前からの適切な食生活が自身と生まれてくる子どもの健康にとって大切なのです。
多くの若い女性は「やせ願望」を抱いており、その多くが痩せる必要がないのに偏った食生活や過度なダイエットを繰り返しています。食事摂取基準2020年版によると、20代女性の1日の推定エネルギー必要量は2000kcalですが、実際の平均エネルギー摂取量は1600kcalを推移しています。
妊活に取り組みたい場合、まずは自身の適正体重を知り、ダイエットを望んでいる場合は本当に体重を減らすことは必要なのか考えてみましょう。さらに、不足しているのはエネルギーだけではなく、さまざまな栄養素の不足も問題になっています。糖質に偏った食事が多く、エネルギーは足りているのに身体の機能を調整していく上で必要な栄養素が不足しているケースも多くあります。特に不足しやすい栄養素について見ていきましょう。
妊娠前からしっかり摂りたい鉄分
なんと日本女性の5人に1人が貧血と言われています。貧血になると全身が酸欠状態に陥り、めまいや倦怠感などの不調が現れます。血液検査では貧血の数値が現れなくても、実は「隠れ貧血」の可能性があります。貧血にはいくつかの種類がありますが、女性の貧血の約7割は鉄不足の「鉄欠乏貧血」と言われています。通常体内にある鉄の約60~70%は血液中のヘモグロビンに含まれており、残りの鉄は貯蔵鉄といい、肝臓や皮膚などさまざまな部位に貯蔵されています。血液中の鉄が不足すると貯蔵鉄で不足を補います。貯蔵鉄はいわば貯金のようなもので、貯金をどんどん使ってしまっている状態を「隠れ貧血」と言います。
妊活中から鉄分を
女性は常に鉄分が必要ですが、中でも鉄を最も必要とするのは妊活中と言われています。妊娠中は胎児に栄養や酸素を与えるために鉄の需要が高まるため、妊娠する前にしっかりと鉄を蓄えておきたいためです。妊娠期間中に妊婦が貧血だと胎児に影響が出る可能性が高く、ある研究によると妊娠初期から中期にかけて貧血だった妊婦の赤ちゃんは低出生体重児になるリスクが1.29倍、早産になるリスクは1.21倍になるとの報告があります。
妊娠中はつわりで食事の量が減ることも多く、鉄の摂取量も減りやすくなります。そのため、妊娠前から鉄の摂取を意識することが大切なのです。
血液検査のデータの見方
健康診断や不妊治療の血液検査の際はヘモグロビンの濃度しか測定しないケースが多いのですが、これが隠れ貧血を見落とす原因とも言えます。ヘモグロビンは血液中の鉄の値を測定する数値で、12.0g/dl未満が貧血と診断されますが13.5g/dl未満の場合も要注意です。しかし、隠れ貧血を見極めるには、貯蔵鉄である「フェリチン」の値をチェックする必要があります。フェリチンの基準値は3.6~114μg/mlと幅が広いですが、欧米では100μg/ml以下は貧血とされており、日本に適応した場合日本の女性の半数はフェリチン不足の疑いがあります。
鉄不足解消法は?
貧血の予防・改善には鉄が多く含まれる食品を摂ることが第一です。吸収率が高いヘム鉄が含まれる、動物性のたんぱく質を積極的に取り入れましょう。牛肉・赤身の魚・卵などに多く含まれます。野菜や海藻に含まれる非ヘム鉄はビタミンCやクエン酸と一緒に食べることで吸収率が向上します。レモン汁や梅干しなどを合わせましょう。調理器具も大切で、鉄鍋で調理することで鉄分の摂取量を増やすことができます。
妊活に必要だと注目されているビタミンD
ビタミンDは骨の形成に大切なホルモンです。妊娠中にビタミンDが不足すると高血圧症候群や早産などのリスクを高めることが知られています。妊活・不妊との関連性はというと、ビタミンD不足により着床しづらくなり、胎盤の形成が不十分になるという報告もされています。また、排卵障害を起こす多嚢胞性卵巣の方はビタミンDが不足しているという研究結果もあります。そのほかにも妊娠中の合併症を予防、月経困難症・乳がんの予防にもつながると期待されており、今妊娠・妊活に必要な栄養素として注目されています。
しかし、日本ではビタミンDを補充した食品はほとんどなく、食事からの摂取が難しいビタミンと言えます。日本人のビタミンD濃度を調査した報告では、基準値のビタミンD30ng/mlに比較して不足していると報告されています。ビタミンDは食事からの摂取だけでなく、紫外線が皮膚に当たることで合成される栄養素です。最近は日光に当たることを避け、日焼け止めを使用する方が多いですが、ビタミンD生成のためにも一定の時間は日光に当たることが大切です。
こころとからだに働きかけるビタミンB群
冒頭で述べたように食生活の偏りによって、私たちは必要な栄養素が十分に摂れていない現状があります。その中でもビタミンB不足の方は多いと言われています。ビタミンBには種類があり、私たちが食べた栄養素をうまく使えるようにエネルギーに変える「代謝」に関わる役割をしているものが多くあります。肉や野菜などに多く含まれ、忙しい毎日を送る働き世代の若い女性には不足しやすい栄養素と言えます。
また、うつなどの精神疾患の栄養療法でも注目されています。ビタミンB群はまさに「こころとからだに働きかけるビタミン」と言えるでしょう。
実は葉酸もビタミンB群の一種です。妊娠前から葉酸を摂取することの必要性は広く知られるようになっていますが、そのほかのビタミンB群も不足しているケースが多く、意識的に摂取していく必要があります。
ここではビタミンB群の種類ごとに分けて詳しく見ていきましょう。
ビタミンB1:体内で糖質をエネルギーに変換する際に働きます
不足することで倦怠感・無気力・肩こり・集中力の低下などの原因となります。糖質に偏った食事ばかりしていると不足しやすい傾向にあります。玄米や豚肉に多く含まれます。
ビタミンB2:脂質をエネルギーに変換する働きがあります
成長を促進し、皮膚や爪・髪などの再生に関与します。不足すると口内炎・口角炎・目の疲れなどの症状が現れやすくなります。卵・納豆・アーモンドなどに多く含まれます。
ビタミンB6:たんぱく質の分解や合成に関わるビタミンです
ヘモグロビンの合成にも関わります。不足するとけいれん・うつ状態などの原因になります。豚レバー・うなぎ・のりなどに多く含まれます。
ビタミンB12:葉酸とともに働く造血ビタミンと呼ばれます
不足すると巨赤芽球性貧血というタイプの貧血になる場合があります。記憶力の低下・食欲不振などの症状も現れます。しじみやあさりなどの貝類に多く含まれます。
葉酸:ビタミンB12とともに働き造血ビタミンと呼ばれます
不足すると巨赤芽球性貧血になる可能性が高くなります。DNAの合成に関わるため妊娠時に重要なビタミンで、妊娠前からの意識的な摂取が望ましいと言われています。緑の野菜やのりなどに多く含まれます。
ナイアシン:ビタミンB3とも呼ばれます
糖質・脂質・たんぱく質をエネルギーに変える働きがあります。不足するとうつや幻覚・妄想といった神経症状が現れる場合があります。たらこやカツオなどの魚介類に多く含まれます。
パントテン酸:ビタミンB5とも呼ばれます
こちらもナイアシンと同様に糖質・脂質・たんぱく質をエネルギーに変える働きがあります。パントテン酸は納豆・鶏レバー・卵黄などに多く含まれます。
ビオチン
ナイアシン・パントテン酸と同様に糖質・脂質・たんぱく質をエネルギーに変える働きがあります。ビオチンは大豆製品や豆類に多く含まれます。
今回は妊活中の女性が不足しがちな栄養素についてまとめました。女性の社会進出が進んだことで共働き世帯が増え、出産を望みながらも忙しく働いている方も多くいらっしゃると思います。多くの女性が摂取エネルギー量や栄養素が不足しています。改めて自身の体格指数を確認し、栄養素に不足がないか振り返ってみると良いかもしれません。
この記事の監修者:松尾和美
保有資格
・管理栄養士
・野菜ソムリエ
・美肌食アドバイザー
・栄養療法ダイエットアドバイザー
・ベジフルビューティーアドバイザー
・ファスティングマイスター
・薬事法管理者
・コスメ薬事法管理者